ソバの危険性は、意外に知られていない。札幌市の小学生が、給食に出されたソバを食べて、具合が悪くなって帰宅途中、発作がひどくなり呼吸困難となって死亡した 事件があった（1988）。ソバが危険なのは、アナフィラキシー・ショックを起こすためだ。給食関係者が、ソバアレルギーの危険性を知らずに招いた悲劇だ。今では、札幌 市の給食にソバはでない。
　私自身もソバを食べて発作を起こし、あわてて救急病院へ駆け込み、処置を受けたことがある。危険性は、わかっていたので、ソバは絶対に食べないようにしていた。 うどんでもダメだ。ソバと同じ湯でうどんをゆでるためだ。ソバ饅頭もソバボーロももちろんダメだ。とても注意していた、にもかかわらず、発作を起こしてしまった。 思わぬところにソバ粉が使われていたのだ。その夜は、懐石料理の野菜の和え物の中にソバ粉が入っていたらしい。比較的近くに救急病院があったから事なきを得た。そ れ以来、ソバに対して、いっそう警戒心を強めた。こんな危険食品の販売がなぜ許されているのだ！本年から成分表示が義務づけられた。危害分析を行い、他の食品への 不用意な混入を防止し、厳正な運用を望みたい。
　近頃、ソバにはルチンな含まれており、それが、血圧降下作用があるなどと噂になって、ソバを健康食品と勘違いして、いろいろな食品に入れようとしている人たち がいる。アレルギーをみくびってはいけない。不用意に食品や飲料にソバを入れると、事故を招き企業は補償で倒産するだろう。国際線の機内食のソバには驚く、アレ ルギー事故での緊急着陸のリスクを計算に入れているのだろうか？
　ソバのアレルギーは、I型の即時型である。体内に入ったアレルゲンに免疫グロブリンEが反応して、肥満細胞・好塩基球が刺激されて、ヒスタミンなどの物質が爆発 的に放出される。数分以内に症状が出ることが多く、ショックを抑制する初期の救急医療が重要である。いったん症状が無くなっても24時間以内にぶり返すこともあるの で経過観察も必要だ。
　ソバアレルゲンもわかってきた。24ｋdのタンパク質で、種子中の貯蔵タンパク質として、広く分布しているグロブリンタンパク質の低分子サブユニットに相当する。 他の植物性のアレルゲン、大豆グリシニンの塩基性サブユニットや米グルテリンタンパク質に類似することもわかってきた。さらにIgEと結合する部分（抗原決定基、エ ピトープ）のアミノ酸配列も明らかになってきた。
　もし、ソバアレルゲンのアミノ酸配列を改変して結合しないようになれば、アレルギーを起こさない、起こしにくいソバの改良品種が出現し、アナフィラキシー・ショッ クの恐怖から開放される。植物のねらった形質のみを改変する現実的な方法は、遺伝子組換え技術である。大豆アレルギーや米、ミルクなどのアレルゲン食品を安全にす ることもできる。遺伝子組換え技術こそアレルギーの人々が、待ち望んでいる技術である。これを理解していないマスコミが多くて、アレルギーの私は困っている。遺伝 子組換え技術こそが、食品アレルギーの人々を救う技術だ。
　この夏も高校生向けの遺伝子組換え実習講座を開く。実習であつかうのは微生物だけだが、こんな話題も入れてバイオ技術を若い世代に積極的に理解してもらう試みを 続けている。